北ウイング

@askn__21

Melancholizer Vol.1レビュー

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※僕のかなり個人的な意見、視点が中心になるので偏見を押し付けてしまうことを避けるため、一聴した後に読んでいただくことをお勧めします。

 

1. AsKing - Ohse

拙作その1です。着想としてはGYZEやZemeth、Thousand Eyesのような邦メロデスなのは予想していただけるんじゃないでしょうか。

僕は常日頃から「日本らしさをメタルに合わせたらどうなるだろう?」というテーマを持っていて、時には演歌のヨナ抜き音階でスラッシュメタルを作ったりだとか(笑)迷走してたこともあったんですが、今回は演歌~昭和歌謡で用いられるクラシカルフレーズで曲を構成することでそのコンセプトにアプローチしました。

日本人は歌謡曲を作る上で、クラシカルスケールから日本人独自の哀愁や叙情性を選り取り自分たちの音楽を作り上げました。本来の日本特有のメロディとかけ離れてはいますが、これも十分日本人のアイデンティティとして認めるべきだと僕は思うのです。

歌詞に関しては逢瀬、つまり男女の色恋沙汰の儚さを書きました。最近自分自身や身の回りにそのことを感じずにはいられない出来事がいくつかあったので、曲に思いを詰めた次第です。

 

2. AsKing - Kaikyutan

拙作その2です。Ohseの暗さとは一変して、ナチュラルマイナーとメジャースケールを行き来する、明るさすら感じられる曲に仕上がりました。

僕は夏という季節が苦手なんですが、その理由の一つとして物悲しさといいますかノスタルジーといいますか、感情がこみ上げて泣きそうになるあの感覚に慣れないんです。久しぶりに久石譲の「summer」を聴いた時にそれが蘇ってきて、「うわ、暗くもないのに悲しいって気持ちわりぃな」なんて思いながら作ったのがこの曲です。

歌詞については夏の中でも特に幼子の頃の記憶、昔のことを思い出すと悲しくなるってことを書いていて、Kaikyutanっていうのは「懐旧譚」のことです。僕の書く歌詞って半分くらい過去への後悔なんですよね。

(あまり関係ないけど藤子F不二雄のSF短編集の「ノスタル爺」ってやつめっちゃ夏の悲しさが詰まってるからyoutubeで検索してみて)

 

3. Stokurami - 緋き閃光

散々仲良くしてもらってるStokuramiの正統派メロデスともいえる一曲で、イントロ直後やA、Bメロの裏で聞こえるピアノのメロディがGYZEを彷彿とさせます。サビでクリーンを用いながらも「あかっきっ閃光!」とシンガロングのようなスクリームが入っているので不思議と抵抗感がなく上手いな、と思わされました。ダミ声のような高音スクリームからクリーンまで使うボーカルスタイルの選択肢の多さはコンピレーション内随一ですね。

2番が終わったあとの間奏はギターリフとピアノが絡みつき、僕の大好きなSkyfireを彷彿とさせます。彼らと仲良くさせてもらってバックグラウンドを知っている僕からすれば、本当に自分たちのリスペクトする音楽に対して忠実に誠意を持って作り上げてきたなと思います。

 

4. Stokurami - ウタ

今度は打って変わって、彼らのことをよく知る僕ですら最初聴かせてもらった時はかなり困惑しました。別バンドかもしくは知らないアーティストの曲か…?と。この曲に関してはインストゥルメンタルを作っている時点で何度か聴かせてもらってはいたんですが、まさかこういうゴールを目指していたとは思ってもみませんでした。

曲はシンセサイザーとEDMチックなドラム、そして全パートに渡る女性vo.で構成されており、今までの彼らの楽曲とは一線を化します。しかしながらStokurami独特の寂しい雰囲気は決して衰えずむしろ増長しています。ディストーションギターの使い方が僕のような頭の硬いメタラーには難しい発想力なんですよね。静と動の激しい使い分けに圧巻されてしまう。

文学チックで幻想的な歌詞が綺麗な女性ボーカルによって存在感を現してるといったところでしょうか。コンセプトは一切聞かされてはいませんが、個人的には青春期に感じるような儚さとその対になる永遠性のようなものを感じました。

 

5. Thanatophobia - Merciless Sorrow

セットリストを作ったのは僕本人なんですが、Stokuramiの「ウタ」の後にこの曲を持ってきたのは本当に後悔しています。プリブラとしての完成度は恐ろしく高いんですが、誰がさっきの「ウタ」を聴いた直後にこの音楽性にのめり込めるんですか。本当に僕のせいです。

彼はdarkthroneを崇拝(?)しており、2~3つのリフだけで構成されたこの曲にはたっぷりとそのリスペクトが感じられて思わずニヤけてしまいますね。しかし決して暗いメロディーではなく、サビに至ってはメタリックなリフも混ぜています。彼曰くこれはメロブラだそう(違ったらごめんね)なのでそこにプリミティブさを付け加えられた結果、捉え方によっては勇ましくも感じられる多角性のある曲が完成したのでしょう。

僕は多くを語らないものが好きで、60~70年代のヒッチコックキューブリックに代表される「想像の余地を与え、視聴者に作品の補完をしてもらう」タイプの映画がそれに当てはまります。現代人は作品に対する想像力だとか読み取る力が衰えてしまっていますよね。僕にとっては説明しすぎなくらい分かりやすいストーリーの「君の名は」を見て「意味が良く分からなかった」という意見が出たという話はそれに代表される悲しい現実です。話が逸れてしまったのですが(笑)、この曲は短く簡潔にまとめられた作品中に想像の余地を与えてくれます。「無慈悲な悲しみ」なんてタイトルはそのための一つのヒントになってくれるのではないでしょうか。

 

6. Thanatophobia - Mortal Fear

打って変わってDSBM色の強いダウンテンポの1曲です。ギターの入りが秀逸すぎてこの手のジャンルへの愛を感じられずにはいられません。無機質で不協和音的にユニゾンするギターは突然鳴り出したかと思えば用が終わればすぐに帰っていき…(笑)、無情さをその展開で表現しているとしか思えません。

僕が最も注目するのはクリーンギターを切り裂いて入ってくるノイジーなボーカルです。ディストーションギターのようにも聞こえるそれは、クリーンギター→ボーカル→ディストーションギターと段階的に進んでいく展開の中でも特に特徴的な役割を持っています。彼にDTMのことでいくつかアドバイスすることはあったんですが、ボーカルに関しては一切聞かれた覚えがありません。DTM初心者がここまでブラッケンドで曲への馴染みもいいボーカルスタイルを確立しているのは、奇跡かはたまた努力か…。コンポーザー視点では一番評価の高い箇所です。

 

7. 親指〆器 - 背理の奏

ズーンと重いギターで幕を開ける親指〆器の1曲目はシンセサイザー→クリーンボーカルでの歌い上げをこなした後にいつもの親指節へと突入していきます。時々入る金属音や民族的なドラムリズムが緊張感を作っているんですが、本当にこういうセンスはどこから溢れてくるんでしょうか。さすが大御所としか言いようのない構成力に圧巻させられます。

ブラックメタラーが好む展開として急激な曲展開というものがあります。この曲の突然始まるシンセパートやトレモロリフにはそういったものがありありと感じられるし、クラシカルなヴァイオリン系の音色と相まってより完成度を押し上げています。こんなに短い10分間があるか?と聞かれればなかなかありません。この曲か単位のかかった試験の最後くらいでしょう。

親指〆器の曲は一つの曲というより、複数の曲で出来上がったアルバムを通して聴くような感覚に陥ります。「背理の奏」は特にその印象が強いものに仕上がっていました。

 

8. 親指〆器 - 月光蝶

43分間に及ぶ「Melancholizer Vol.1」もようやく終盤に差し掛かり、この壮大なインスト曲によって丁寧にまとめあげられていきます。ブラックメタルの域に留まらないセンスを感じるのですが、やはりこういった着想はフロントマン望意くんの愛してやまないOpethから来ているのでしょうか。

彼は普段から静と動の使い分けへの意識を言及しています。一曲目にももちろんその意匠は感じられたのですが、この曲では全体的に穏やかな曲調の中にも細かな静と動の使い分けを感じ、生命の息吹とか惑星の営みとかそういった規模のイメージを浮かべずにはいられないのです。

失礼ながら親指〆器の参加を面々から打診された時、僕らの音楽性と親指〆器の音楽性が本当に合致するのか不安を感じました。結局合致なんてしてないんですが、このコンピレーションアルバムのバラエティの豊かさを押し上げ、聴きごたえを何倍も膨らませてくれたのは紛いもない親指〆器の力にあります。セットリストを作ったのは僕ですが作った段階では全楽曲を聴いてはおらず、彼らのインストゥルメンタルによってこのアルバムを締めくくられた偶然に本当に感謝しています。

 

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